ヒューズ と PTC の比較

このセクションでは、PTC かヒューズかで最も適した過電流回路保護デバイスを選ぶためのガイダンスをご紹介いたします。

ヒューズか PTC かの選択は好みの問題であることが多いですが、どちらが適切かについては、アプリケーションによって重要な考慮点および共通事項があります。

たとえば、コンピュータ、周辺機器、ポータブル機器(スマートフォン、タブレットなど)の設計には、自動的にリセットされる PTC が適しています。ヒューズを使用すると、過電流状態が起こるたびに交換しなければならず、現実的とは言えません。

その他の場合では、ヒューズが好ましいケースもあります。なぜならば故障状態で電流が完全に停止するからです。下流の回路装置の安全性の確保とダメージの回避が重要な場合は、この処置が望ましいと言えます。また、ヒューズは診断目的にも適しており、装置設計者およびユーザーが過電流の発生源を付きとめる際に役立ちます。


過電流回路保護

過電流保護を提供する場合、回路設計者は使用する技術を選択しなければなりません。従来のヒューズおよびポリマーベース PTC (正温度係数)デバイスは、最も一般的なソリューションとして採用されています。これら 2 つのコンポーネントの違いを理解することで、アプリケーションに最適な保護デバイスを容易に選択できるようになります。

ヒューズは溶断することによって過負荷保護を提供し、その後は交換しなければならないため、「一度限りの」デバイスとみなされています。典型的なヒューズの中心には長いワイヤーが設置されており、過電流によって融点にまで熱されます。ワイヤーが溶解すると、回路の電流はゼロになります。

PTC も同様に過電流に反応しますが、こちらは「復帰型」のデバイスとして知られています。ポリマーベースのユニットは、過負荷が解除されるとリセットされるため、何度でも過電流回路保護を提供することが可能です。過負荷によって熱されると伝導性ポリマーの抵抗が上昇し、電流の流れを制限します。


PTC の保護機能

ヒューズの動作原理については長年にわたり説明されているため、一般に十分理解されています。一方、過電流回路保護における PTC のプロセスについては明確にされていないため、その利点に関してさらに説明が必要です。これまでのところ、PTC はポリマーを材料とし、限流の働きをし、リセットが可能であると定義されています。

ここで説明する PTC は伝導性ポリマーを用いた製品です。ポリマー材料には、伝導媒体としてカーボンブラック粒子が含まれています。抵抗値は、材料に混合されるカーボンブラックの量によって調整されます。発熱によりポリマーが膨張するとカーボンブラックが移動し、その結果伝導性が低下して抵抗値が上昇します。

PTC は、ダメージを与える可能性のある過電流を安全なレベルにまで制限することで機能を果たします。具体的には、デバイス内を過電流が流れると内部熱 (I2R) が発生し、PCT の温度が上昇することで抵抗値が上昇します。通常、PTC の抵抗値は、熱が発生するまでは全回路インピーダンスのごく一部です。ポリマーベース PTCの 抵抗値の増加は、グラフに示すように非線形であり、抵抗値をこのように比較的大幅に増加させることで回路電流を安全なレベルまで抑制します。低い抵抗値から高い抵抗値への遷移をトリップポイントといいます。

高い抵抗を受けて電流が通り抜ける際に熱が発生するため、PTC の温度が保たれ、抵抗値が高い状態で維持されます。この熱平衡状態は、回路への電力供給が停止され、PTC が冷却されて抵抗値が下がるまで続きます。PTC のリセット機能は、温度上昇に伴う抵抗の増大が元の状態に戻るという事実に基づくものです。回路への電力供給がなくなり、デバイスが冷却されると、PTC がリセットされるか、もしくは抵抗が低い状態に戻ります。この状態になると、装置が過電流に対して反応する準備が整ったことになります。過電流の原因が修正されれば PTC は低い抵抗値を保ちますが、過電流が再発すると 抵抗値が再び高くなります。


PTC かヒューズかの選択

過電流回路保護は、従来のヒューズまたは近年開発された復帰型 PTC を用いることで実現できます。どちらのデバイスも、回路に過電流が流れることによって生じる熱に反応することで機能します。ヒューズは溶断して電流の流れを遮断し、PTC は低い抵抗から高い抵抗に変化して電流の流れを制限します。この 2 種類のデバイスの機能の違いを理解することにより、最良の回路保護を容易に選択できます。

両者の最も明らかな違いは、PTC はリセットが可能であることです。過電流が生じた後のリセットの一般的な方法は、電源供給を停止し、デバイスを冷却することです。そのほかにも、PTC とヒューズには動作特性の違いがいくつかあります。PTC 向けの用語は大半の場合、ヒューズ向けの用語と類似してはいますが、同じではありません。たとえば、リーク電流や遮断定格という 2 つのパラメータは PTC の用語です。

リーク電流:過負荷により、PTC が低い抵抗状態から高い抵抗状態に移行することを「トリップ」といいます。回路保護は、電流の流れをリーク電流レベル程度に制限することで実現します。リーク電流の値は、定格電圧時の 100mA 前後から低電圧時の数百 mA までの幅があります。一方、ヒューズは過電流が生じると電流の流れが完全に遮断されて開回路となるため、リーク電流は「0」になります。

遮断定格:PTC は定格電圧のもとでの最大短絡電流に合わせて定格されます。この故障電流レベルは、デバイスが耐えることのできる最大電流ですが、PTC は実際には電流を遮断しません(上述の「リーク電流」を参照)。標準的な PCT の定格短絡電流は 40A です。ヒューズは過電流が起こると実際に電流を遮断します。遮断定格の範囲は、定格電圧時には数百 ~ 10,000A に なります。

回路パラメータの値によって、デバイスの定格の差を基準にしたコンポーネントの選択が決定される場合があります。

定格電圧: リテルヒューズの汎用 PTC の電圧定格は 60V 以下ですが、ヒューズの場合は最大 600V まであります。電流定格:PTC の定格保持(動作)電流は最大 11A に達する場合があり、ヒューズの最大値は 20A を超える場合があります。

定格温度: PTC の有効上限温度は通常 85°C ですが、ヒューズの場合は 125°C です。どちらのデバイスも 20°C を超える場合はディレーティングが必要であり、そのために代表的なディレーティング曲線を参照する必要があります。

気温度が 20°C 以外での各種 PTC シリーズの適切なディレーティングについては、データページの PTC ディレーティング曲線を参照してください。

過電流保護のために PTC またはヒューズのどちらを選択するかを決定する際に、回路設計者はその他の動作特性を参照することもできます。

規格認証:PTC は、アンダーライターズ・ラボラトリーズのコンポーネントプログラム UL サーミスタ標準規格 1434 に基づく認証を取得しています。このデバイスは、CSA のコンポーネント承認プログラムに基づく認証も取得しています。さらに PTC は、TUV、VDE などの規格に加え、IEC 規格 730-1 (自動電気制御装置)の認証を得られる可能性があります。また、ヒューズに関する認証には、アンダーライターズ・ラボラトリーズのコンポーネントプログラムおよび CSA のコンポーネント承認プログラムなどに基づくものがあります。また、多数のヒューズが、新設された補足ヒューズ規格 UL 248-14 に準拠した製品としてリストアップされています。

抵抗:製品仕様によれば、類似の定格電流の場合、PTC はヒューズの約 2 倍(場合によってはそれ以上)の抵抗を示します。時間対電流特性:PTC とヒューズの時間対電流特性を比較すると、PTC の反応速度は Slo-Blo® ヒューズのタイムラグと同様です。


過電流保護アプリケーション

PTC 材料には、ラジアルリードパッケージと表面実装タイプがあります。復帰型 PTC の機能は、さまざまな設計アプリケーションに対応できます。

プラグアンドプレイ アプリケーションには、マザーボードに加え、コンピュータポートへの頻繁な脱着が可能な多数の周辺機器が含まれます。マウス、キーボード、オーディオ、ネットワーク、モニター、USB ポートでは、故障ユニットや破損ケーブルが接続されたり、接続ミスが発生したりする可能性があります。したがって、障害が撤去された後にリセットできるという機能は非常に魅力的です。ラジアルリードタイプと表面実装タイプのどちらが適切かは、アプリケーションによって異なります。

PTC は、破損を起こしかねない過電流からディスクドライブを保護することが可能です。この過電流は、電源の故障による過電圧が原因で発生します。ディスクドライブ アプリケーションでは、表面実装タイプの PTC が使用される傾向にあります。

電源は、パワーを供給している回路内の故障の影響を受けやすくなっています。電源は保護されていないと、低抵抗の短絡で必要とされる電流を供給しようとします。複数の負荷や回路がある場合、それぞれ個別の PTC を使用して保護することが可能です。通常は、PTC を出力回路に置きます。この場合、ラジアルリードまたは表面実装のどちらのタイプも使用できます。

モーター過電流によって過剰な熱が発生すると、絶縁破壊を起こす場合があります。また、小型モーターでは、ワイヤー巻取の直径が非常に小さい場合でも故障が発生することがあります。一般的に、PTC は通常の動作開始電流ではトリップしません。モーターの保護には、通常ラジアルリード PTC が使用されます。

また、回路短絡で発生する過電流によってトランスが破壊される可能性がありますが、PTC の限流機能により保護できます。この場合、PTC を変圧器の負荷側に置いて、回路短絡による影響を最小限に抑えます。ラジアルリードタイプまたは表面実装タイプのユニットは、さまざまなアプリケーションで使用できます。