サーミスタの製造プロセス

 

受入検査

受け入れた原材料すべてについて、物理的および電気的特性が受入可能なものであるか検証します。各原材料には個別に ID 番号が割り当てられるため、ロットの追跡が可能になります。

原材料の混合

NTC サーミスタの製造 は、原材料を有機バインダー溶液と正確に混ぜ合わせることから始まります。原材料とは粉状にした遷移金属酸化物を指し、マンガンやニッケル、コバルト、酸化銅などが挙げられます。混合物には、その他の安定剤も添加されます。酸化物とバインダーは、ボールミリングと呼ばれる湿式加工技術を用いて混ぜ合わせます。ボールミリングの工程で素材が混ざり合い、酸化物粉末の粒子の大きさが小さくなります。均等に混ざった混合物は、どろどろとしたスラリーのような状態になります。さまざまな金属酸化物と安定剤の正確な構成比率により、抵抗温度の特性や焼成セラミックのコンポーネントの抵抗率が決まります。

テープキャスト

この「スラリー」は、ドクターブレード技術を用いて、移動するプラスチックのキャリアシート上に広げられます。プラスチック運搬シート上部のドクターブレードの高さと運搬シートの速度を調節し、スラリーの粘度を調整することで素材の厚みを正確に管理します。この鋳込材料を平らな鋳造用ベルトに乗せ、高温に設定された長いトンネル状の炉を通して乾燥します。このプロセスによってできる「緑色」のテープは延性があるため、簡単に成形できます。続いて、テープの品質点検と分析が行われます。このサーミスタテープは特定のコンポーネントの仕様に応じて、0.001インチの薄さから0.100インチ以上の厚さまで、さまざまな厚さに鋳造されます。

ウエハーの成形

これで、キャストテープでウエハーを成形する準備が整いました。薄い材料が必要な際は、テープを小さい四角形に切断するのみです。より厚みのあるウエハーが必要な場合は、いくつかの四角形に切って互いに重ねます。積み重ねられたウエハーは、一緒にラミネート加工されます。これにより、必要に応じて実質的にあらゆる厚さのウエハーを作成することができます。続いて、ウエハーに対してさらなる品質点検を行い、確実に高い均一性と品質が得られるようにします。品質点検の次に、ウエハーはバインダーのバーンアウトサイクルの工程へと進みます。このプロセスにより、ウエハーからほとんどの有機バインダーが取り除かれます。バインダーのバーンアウトサイクル中は、サーミスタのウエハーに悪影響を及ぼす恐れのある物理的ストレスを防ぐため、時間と温度の正確な管理が継続的に行われます。

焼結

ウエハーが非常に高温になるまで、酸化雰囲気の中で加熱されます。このような高温の中で、酸化物が互いに反応して融合し合い、スピネルセラミックスマトリックスを形成します。焼結工程で、素材はあらかじめ決められた度合まで密度を増し、セラミックの粒界が大きくなります。焼結工程では、正確な温度特性が維持されます。これは、ウエハーにひびが入ることを防ぐとともに、均一な電気特性を持つコンポーネントを生産できるようなセラミックを仕上げることが目的です。焼結が終わると再度ウエハーの品質点検が行われ、物理的および電気的特徴が記録されます。

電極

厚膜状の電極材を用いて、セラミックウエハーへの抵抗接点とします。使用される電極材は用途によって異なりますが、通常は銀、パラジウムと銀の合金、金、または白金が使用されます。電極材は金属とガラスのほか様々な溶剤を混合して作られており、スクリーン印刷やスプレー、ブラシを用いて、ウエハー上の2つの対向面またはチップに使用されます。厚膜ベルト炉の中で電極材を加熱してセラミックに接合させると、セラミックと電極の間に電気的結合と機械的なつながりが生まれます。金属化したウエハーは点検され、その属性が記録されます。電極の工程で正確に制御することで、ウエハーが作り出すコンポーネントに、長期にわたって持続する非常に優れた信頼性がもたらされます。

ダイシング

電極化されたサーミスタウエハーは、半導体用の高速ダイシングソーによって小さなチップ状に切削されます。ダイシングソーはダイヤモンドブレードを使用しているため、きわめて均一なダイスを大量に作り出すことができます。これによってできるサーミスタのチップのサイズは、最小0.010~1.000平方インチです。ダイシングされたサーミスタチップ間の大きさの違いは、実質的に測定不可能なほどわずかです。通常のサーミスタウエハー 1 枚で、何千ものサーミスタチップを生み出すことが可能です。ダイシングを行った後はチップをクリーニングし、サイズや電気特性を調べるために検査が行われます。電気検査では、公称抵抗値、抵抗温度の特性、および歩留まりが検証され、特定の用途におけるロットの合格判定が行われます。抵抗性および抵抗温度の特性は、ちょうど 0.001℃ になるよう制御された正確な温度浴を使用して測定されます。2017年にリテルヒューズが買収した U.S. Sensor 社のテスト用機器は、すべて定期的にキャリブレーションが行われ、米国標準技術局(N.I.S.T.)による追跡が可能となっています。さらに、リテルヒューズは温度と抵抗性の主要な標準規格を守っています。

抵抗性テスト

適切な抵抗値(通常は 25℃)が得られるよう、すべてのサーミスタがテストされます。チップのテストは通常自動的に行われますが、生産された数量や仕様によっては手動で行われることもあります。自動チップハンドラは、抵抗性テスト用機器およびコンピュータとインターフェースで接続されています。これらの機器とコンピュータは、抵抗値に応じてチップを異なる容器に配置するよう、オペレーターによってプログラムされます。それぞれの自動チップハンドラが 1 時間に 9,000 個もの部品を検査でき、その精度は非常に優れています。リテルヒューズはチップ仕分装置に加え、リード付きの自動コンポーネントハンドラもいくつか用意しており、これを使用することで完成したサーミスタを最大 11 個の容器に分別することができます。自動仕分装置により製品の品質が向上するとともに、リードタイムが短くなり、コスト削減にもつながります。

リード線の取付け

サーミスタがチップに内蔵で販売され、リード線を必要としない場合もありますが、ほとんどはリード線が必要です。リード線へのサーミスタチップの取り付けは、はんだ付け、またはダイオードスタイルのパッケージ内での圧接により行われます。はんだ付けの工程で、サーミスタチップはリードフレームに取り付けられます。これらのリードフレームは、はんだ付け工程でチップを支えるために、ワイヤのばねの張力を利用しています。その後、アセンブリは溶けたはんだに浸けられ、取り出されます。浸漬の速度とドエルタイムは、サーミスタが過度な熱衝撃を受けることがないよう、正確に管理されています。また、サーミスタチップを損傷せずにはんだ付けのパフォーマンスを高めるため、特別な溶剤も使用されています。はんだがチップの電極とリード線に付着することで、ワイヤーがチップに強く接合されます。ダイオードスタイルのパッケージ「DO-35」に含まれるサーミスタに関しては、サーミスタチップは 2 本のリード線の間で軸のように固定されています。アセンブリの周囲にガラススリーブが配置され、アセンブリが高温になるまで加熱されると、サーミスタチップの周りのガラススリーブが溶けてリード線に付着します。ダイオードの構造では、ガラスのアセンブリへの圧力により、リード線とサーミスタチップの間に必要な接点が生じます。

サーミスタで使用されるリード線は、通常は銅やニッケル、または合金で、スズやはんだのコーティングが施されています。サーミスタがリード線から熱的に分離される必要のある所定の用途においては、低熱伝導性合金のリード線素材が使用されることもあります。これにより、ほとんどの用途においてサーミスタがより迅速に温度の変化に反応できるようになります。付着した後、リード線とチップの接合状態が点検されます。はんだの接合面が強力であれば、完成したサーミスタの性能も長期的に保証されます。

封止

サーミスタを作動環境や湿気、化学的浸食、接触による腐食から守るため、リード付きのサーミスタは絶縁保護コーティングにより保護されていることが多くあります。通常は高熱伝導性を持つエポキシ樹脂が封止材として使用されます。その他の封止材としては、シリコン、セラミックセメント、ラッカー、ウレタン、シュリンクスリーブなどが挙げられます。また、封止材によって装置の機械的完全性も高まります。封止材の選択は、サーミスタの熱応答を考慮して行われます。迅速な熱応答が必要不可欠とされるアプリケーションでは、薄膜状の高熱伝導性の封止材が使用されます。環境保護が優先される場合は、別の封止材が選択されることがあります。封止材がエポキシ樹脂、シリコン、セラミックセメント、ラッカー、ウレタンの場合、通常は浸漬工程で接合が行われ、室温で硬化するか、高温の炉に入れられます。この工程で材料に小さな穴や変形などが生じることがないよう、時間や温度、粘度の管理が正確に行われます。

終端

サーミスタは通常、リード線の末端に端子が付けられた状態で供給されます。端子を取り付ける前に、リード線上の絶縁体を適切に取り外すことで、特定の端子が取り付けられるようになります。これらの端子は、特別に用意された取り付け機を使用してリード線に取り付けられます。端子は、お客様に発送する前にプラスチックや金属製のハウジングに挿入することもできます。

プローブアセンブリ

環境保護または機構上の目的で、サーミスタがプローブハウジングに埋め込まれることが多くあります。このようなハウジングの作成に使われる素材の例として、エポキシ樹脂、ビニール、ステンレススチール、アルミニウム、真鍮、プラスチックなどが挙げられます。ハウジングはサーミスタのエレメントに適切な機械的装備となるだけでなく、その周囲の環境から保護します。適切なリード線、リード線の絶縁材、およびポッティング材を選択することで、サーミスタが外部の環境から十分に閉ざされた状態にすることができるのです。

マーキング

サーミスタが完成したら、簡単に識別ができるようマーキングが行われます。マーキングには色の着いた点のようにシンプルなものから、日付コードや品番のように複雑なものまであります。一部のアプリケーションでは、サーミスタ本体に特定の色を着けるため、コーティング材に染料が添加される場合があります。通常は浸漬プロセスにより、色の着いた点がサーミスタ本体に付けられます。英数字の記入を必要とするマーキングは、マーキングマシンを用いて行われます。この機械では単純に該当箇所にパーマネントインクでのマーキングが行われ、 高温でインクの硬化が行われます。

最終点検

完成したご注文品はすべて、「ゼロ・ディフェクト(欠陥ゼロ)」の原則に基づいて、物理的および電気的欠陥がないか点検が行われます。製品の発送前に、あらゆる特性が点検されて内容が記録されます。

梱包および発送

すべてのサーミスタとアセンブリはていねいに梱包され、少なくとも以下の情報を含むバーコードラベルのタグが付けられます:

  1. リテルヒューズの品番
  2. お客様の品番
  3. お客様のご注文番号
  4. 発送日
  5. 数量
  6. リテルヒューズの受注番号